トヨタとパナソニックが開発を進めるEV車用バッテリー技術、開発競争の激しさが見えてきた!?

企業発表

トヨタとパナソニックの合弁会社として設立された「プライム プラネット エナジー&ソリューションズ株式会社」(以下PPES)は、代表取締役社長をトヨタ自動車出身の好田博昭氏が就任し、2020年4月1日に操業を開始した。

事業内容

  • 車載用高容量/高出力角形リチウムイオン電池の開発・製造・販売
  • 車載用全固体電池の開発・製造・販売
  • 上記以外の車載用次世代電池(新原理によるものを含む)の開発・製造・販売
  • その他付帯・関連事業

生産体制強化のPPES発表

車載用リチウムイオン電池の生産体制を強化することを2021年5月19日にPPESが発表した。

PPESは、電動車に必要な車載用角形リチウムイオン電池の需要増加に対応するため、生産能力の拡大を図っていきます。

【当社が新設する生産ラインの概要】
1.PPES 姫路拠点
・所在地 : 兵庫県姫路市飾磨区妻鹿日田町 1 番 6
・生産品目 : 電気自動車(BEV)用角形リチウムイオン電池
・生産開始時期: 2021 年内生産開始、順次生産拡大
・生産能力 : BEV 約 8 万台/年相当の増産となる見込み
2.PPEDL 中国大連拠点
・所在地 : 中華人民共和国 遼寧省 大連市
・生産品目 : ハイブリッド自動車(HEV)用角形リチウムイオン電池
・生産開始時期: 2021 年内生産開始、順次生産拡大
・生産能力 : HEV 約40万台/年相当の増産となる見込み

電池出荷量No2

世界車載電池メーカー上位12社の出荷量(2018年)」(出所;JETRO)によれば、電気自動車用の電池メーカーでは、パナソニックがNo2にあり、上位に位置します。

順位企業出荷量(MWh)
1寧徳時代新能源科技(CATL)23,540
2パナソニック23,300
3恵州比亜迪電池(BYD)11,600
4LG化学7,500
出所:JETROの「世界車載電池メーカー上位12社の出荷量(2018年)」の一部編集

PPESは、合弁会社であることから、パナソニックとトヨタの両社の技術や特許を使ったバッテリーを製造する企業であることと思われる。

そもそもパナソニックの電池とは

パナソニックの企業発表によれば、車載電池のリーディングカンパニーであると自らがいうパナソニックは、2006年に初めて電気自動車(EV)向け電池を市場投入している会社である。以降、特に車載用リチウムイオン電池では世界をリードし続けてきた。

テスラが採用し、世界最大級のEV向け円筒形リチウムイオン電池の生産拠点を北米に立ち上げ、車載電池において世界最高水準のエネルギー密度と、コバルトフリーの実現の両立に向けて取り組んできた業界をリードする電池を生産している。今も絶え間ない技術革新を続けている。

需要が高まる EV車用バッテリー

 トヨタは、EV車の今後2025年までにbZシリーズを7車種、bZシリーズを含むEVを15車種市場に導入する計画。脱炭素社会を目指して、新EV車モデルを市場投入する数が増えてきている。

電気自動車(EV)のキーパーツが車載用バッテリー。一充電での航行距離や給電時間がバッテリー性能に依存するくらいのキーパーツである。

それゆえ、バッテリーの技術開発が、EV車の需要や販売競争に影響する。

PPESの顧客は、トヨタ以外の自動車メーカーに販売する可能性があるが、当然、トヨタ自動車が中心になると予測される。

一方で、トヨタは、EV車モデルを市場導入する計画が増えているので、電池の量産が課題になる。PPESに期待が高まる。

battery特許解析

パナソニックとトヨタのbattery*vehicle に関する米国特許を出願する発明者の人数をグラフ化した。出願件数ではなく、開発者の人数に相関が高い発明者の人数のグラフである。

なお、グラフの母集団は、EV車向けでない電池技術を除外するために、vehicleについて記載がある特許出願に限定している。

開発着手

グラフによれば、2000年初旬からトヨタは、電池の開発を行っていたと推定される。

一方で、パナソニックは、電気自動車(EV)向け電池を市場投入した2006年の前から開発が始まり、その後、発明者の人数、つまり、技術開発者の人数を強化されたことが分かる。

人数比

発明者の人数を比較してみると、

2010年代に入り、トヨタが200人~300人、パナソニックが100人超の発明者を投入していることが分かる。

開発内容

2000年代の技術内容は、電極や電解質などの電池セル内部の構造のものが少なく、周辺の電気回路や電池ユニットの技術などに限っていたが、

2010年代に入り、電池セル内の構造や電解質、素材などに踏み込んだ本格的な電池セルの技術開発がされてきていると思える出願内容である。この傾向は、トヨタだけでなく、パナソニックの特許出願も同様であった。

2010年代というと、ガソリン車やハイブリッド車を主に販売していた時期であるが、電池の開発者を多く投入していたことが分かる。

電池を使用とす車両は、FCEVやハイブリッド車にも使われる。

しかし、EV車用電池となると、電池容量が大きくなり、エネルギー密度を高くする必要があり、電極や電解質、など電池の化学的な技術や内部構造に踏んだ高度な電池開発が必要で、技術開発をトヨタ社内で行う開発体制ができていったことと思える特許解析の結果であった。

まとめ

トヨタとパナソニックとが組んで設立したPPESは、当面、リチウムイオン電池の量産化に取り組み、トヨタのEV車向けに販売をしていくことになると推測される。

一方で、次世代の電池の技術開発は、PPES社内でも行うのかもしれないが、寧ろ、トヨタ自動車本体やパナソニック本体で行われるのではないかと思う。なぜならば、開発する技術が、電池の化学的な技術や内部構造に踏んだ技術だから。

特に、充電時間が短いといわれる全個体電池の量産化できるまでの技術開発が注目される。

パナソニックは、従来からのテスラとの取引が継続していて、量産化に取り組むとともに、安定した販売先のトヨタ自動車向けに、さらなる、性能の高い電池開発に取り組むことが必要である。

トヨタは、中国CATLとの提携など、EV車の量産のサプライチェーンを確保する動きをしていて、PPESだけに頼る戦略ではない。

フォード(Ford)が韓国SK子会社と、GMが韓国LG子会社と電池工場をつくる提携が進められていて、トヨタを入れた自動車メーカー3社のEV車競争がスタートし、EV車の普及段階に入る気配がある。提携や合弁、工場建設、そして、技術開発の今後の動向が注目される。

2021年6月10日 アナリスト 松井

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