トヨタの発表、水素エンジン開発とは

プレスリリース

トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)は、カーボンニュートラルなモビリティ社会実現に向けて、「水素エンジン」の技術開発に取り組むと2021年4月22日に発表しました。

水素エンジンを搭載した競技車両をスーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook 第3戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レースの「ORC ROOKIE Racing」の参戦車両として投入するとしている。

スーパー耐久の様子
出所;プレスリリース

トヨタにとっての意味は、ものすごく大きい!

水素エンジンに気づいたことは、トヨタにとってもの凄いことになると思う。開発が完成した先の期待としてである。

なぜならば、トヨタの強み技術を活かすことができるから。脱炭素社会における未来の車両販売の覇権をとれるかどうかを左右する可能性がある技術であるから。

例えば、テスラが、電気モーター駆動車で先行している。元GoogleのWaymoが電気自動車を開発し、すでに無人自動車のサービス開始をしている。アップルが車両販売に参入するなど検討している。いずれも、電気モーター駆動車で、既存の自動車メーカーと競争できると考えているからである。

水素エンジン車は、脱炭素社会において、電気モーター駆動車より高い駆動性能や脱炭素として性能が勝る可能性を秘めているので、トヨタにとって、重要なアイテムといえる。開発着手の段階で先が見えないが、トヨタの期待は大きいと思われる発表であった。

1.    脱炭素の潮流

ガソリンエンジンが出す排気ガスが問題になって、脱炭素が世界的な潮流になっている。

アメリカや欧州、それに日本でも、脱炭素社会に向けて、法律を変えて実現しようとしていて、道路交通法を変えて、ガソリンエンジンの新車販売ができなくなる法整備が、2030年代中に施行される可能性がある。

すでに、カリフォルニア州のZEV規制があり、排出ガスを一切出さない電気自動車や燃料電池車などのZEVが、州内で一定台数以上自動車を販売するメーカーは、その販売台数の一定比率をZEVにしなければならないと定めている。

このように二酸化炭素を排出するガソリンエンジン車は、排除される流れがある。

2.    バッテリーEV車が、脱炭素の潮流に乗る

ガソリンエンジンの新車販売ができなくなる流れにあって、電気モーターを駆動源とする車両の新製品の販売を開始しています。その中心が、モーターを駆動する大きなバッテリーを備えらバッテリー電気自動車(BEV)の新車が続々登場している。

3.    なぜ水素エンジンなのか?

BEVの流れがもの凄い。そんな中で、トヨタは、水素エンジンをなぜ開発すると発表したのか?

水素エンジンは、トヨタの強み技術であるから。

なぜならば、ガソリンに変えて水素をエンジン内部で燃焼させる内燃機関であるから。内燃機関の技術は、自動車会社にしかないといえる。トップクラスの技術がトヨタにあるのは、過去の実績からも明らかである。

この従来の内燃機関の技術が使える水素エンジンは、自動車会社が下請として抱えるティア1、ティア2、などの中小企業を従来通りに活かすことができる選択肢。電気自動車になると、下請会社の多くが自動車メーカーに供給してきた部品が売れなくなり、倒産するなどの可能性がある。それを救うことができる技術が水素エンジン車である。

4.    燃料電池車(FCEV)との違い

モーター駆動と内燃機関の違いがある。

燃料電池車(FCEV)は、水素を使った車両ではあるが、水素を空気中の酸素と化学反応させて電気を発生させる燃料電池(FC)を車両に搭載した車両。燃料電池でモーターを駆動させるのが、燃料電池車(FCEV)がある。トヨタのFCEVは、「ミライ」が既に販売されている。

一方で、水素エンジンは、ガソリンエンジンの内燃機関を使い、ガソリンに変えて水素ガスを燃焼させることで動力を発生させるものです。

5.    通常発表しない開発着手、それをなぜ発表したのか

技術開発を発表することは珍しい。開発してきたものを商品化前に展示会で発表することはあっても、開発に着手する発表をメーカーが行うことは、珍しい。おそらく、脱炭素社会が待ったなしの状況にある中で、BEVの電気自動車に世の中の流れができたこのタイミングだからといえる。

また、内燃機関が排除される雰囲気があり、水素エンジンがものすごく多くの人に影響を与えるからで、開発に向けた勢いをつける意味があると思う。

さらに、「水素エンジンにおける水素の燃焼の速さは、ガソリンよりも速く、応答性が良いという特徴があります。」

「クルマが持つ、音や振動を含めた「クルマを操る楽しさ」を実現する可能性を秘めています。」と発表されるように、開発着手とはいえ、レースに使えるだけのパワーや耐久性などの性能があり、従来の車両の良さをそのまま生かした魅力的な車両の実用化が近いことを示唆するものであると思う。

まとめ

開発着手段階で発表する珍しいプレスリリースを行ったトヨタの狙いは、次世代の覇権に関わる重要なことであるからだと思われた。
脱炭素の潮流に乗ったバッテリーEV車の流れを阻止することができるかは、不明であるが、一石を投じることになる。特に、自動車販売に参入するIT企業などをけん制することにはなる。

今後

「水素エンジン」の開発の進展について、今後、特許解析で深掘りをする予定。

トヨタがこれまで水素エンジンを開発してきたのかどうか?マツダや海外メーカーが水素エンジンを開発しているかどうか?など、特許解析で深掘りする予定。

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2021年5月1日 アナリスト 松井

上記「今後」で予定するとしていた、深掘り記事が完成しました。以下にリンク先で見てください。

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